《人形は策略という手段を覚えました。》























「ルルーシュ、丁度良かった。」


 そう言いながら小走りに近づいてくるスザクに、ルルーシュは小首を傾げる。
 スザクが両腕に何かを抱えていたからだ。


「ハイ、これプレゼント。誕生日おめでとう。」


 片手に持っていた箱の蓋を開け、差し出してきた物はワンホールのケーキ。


「今年は五番街のショートケーキにしたんだ。あと、チョコレートパイもピースで買ってあるよ。」


 確か好きだったよね?と小首を傾げてくるものだから、ルルーシュは思わず両手で受け取ってしまった。
 目の前にある真っ白の生クリーム。それに飾られた真っ赤な苺。それを目にしただけで、軽くルルーシュの思考回路はショートした。
 頭の中は、ショートケーキで一杯である。どうして、という疑問はルルーシュの頭の中からは抜け落ちてしまった。


「それから、ナナリーからはマリアージュフレールの紅茶が届いてる。マルコポーロとアールグレイフレンチブルー。どっちにする?」


 ナナリーから、の言葉にルルーシュは如実に反応した。顔を上げてスザクを見つめれば、楽しそうに笑っているスザクが笑みを深くする。
 ナナリーからの紅茶。けれどそれに付随して何か嫌な事をも思い出してしまいそうで、ルルーシュは思わず頭を振る、が。
 スザクはなんと言ったか?


「…たん、じょうび。」


 小さく呟いたルルーシュに、スザクは満面の笑顔で返す。


「そうだよルルーシュ、君が生まれてきてくれた日だ。」


 そっと両手でルルーシュの頬を挟みこむと、スザクは真正面からその紫を覗き込んだ。僅かな光源にキラキラ光る瞳が綺麗だと、いつも話す表情でルルーシュを見つめるスザクに。ルルーシュは思わず息を呑んだ。


「去年も言ったけど、生まれてきてくれてありがとう。僕と出逢ってくれてありがとう。ルルーシュ、君を幸せにするのは僕だけだ。だから君はこのままで居てね。君が幸せに笑っていてくれる事が、僕や他の皆の願いだから。」


 頬を少しだけ上向けられて、スザクの顔が近づいてくる。思わず瞳を閉じれば、瞼に小さな音を立てて口付けられた。
 瞳を開ければ、幸せそうに微笑むスザクの翠の瞳が至近距離で輝いている。ルルーシュはボゥとした思考回路のまま、その瞳をずっと見つめ続ける。


「コーネリア殿下とユーフェミア殿下からはマカロンが届いてるよ。セシルさんが冷蔵庫に入れてくれたから、後から食堂に取りに行こうか。とりあえず今は僕のケーキとナナリーの紅茶でお祝いしよう?」


 にっこり、にっこり。
 柔らかい雰囲気を滲ませてスザクは笑う。けれど。


「スザク…、」


その笑みが貼り付けられたものだということに、気がつかない程ルルーシュは学習しない頭では無かった。
 なのに。


「……っっ!」


 顚末に気が付いたルルーシュ手には、既にケーキが載せられている。微笑みながらその様子を伺うスザクの瞳の奥がギラリと光った気が、した。
 頬に添えられていた掌に力がこもる。


「…ルルーシュ。去年も教えただろう?生物は返品不可なんだ、ってさ。」


 ニィ、と口端を吊り上げてスザクは笑う。その顔にはそれまでの優しい表情は消えうせていた。
 代わりに浮かべた笑みからは、逃げ出せない何かが醸し出されている。


「受け取ったんだから、君は僕の要求を呑む義務がある。さぁ、部屋に戻ろう?僕が紅茶を淹れるよ。ナナリーの紅茶、どっちにしようか?」


 いやいやいや、何だそれは、と。ルルーシュは漸く回り始めた思考回路で呟くが、半ば恐慌状態にあるのかそれは声になっていなかった。
 そうして気が付くのである。
 嵌められた、と。
 出会いがしらにワンホールケーキを出された時点で負けだったのだ。ルルーシュの思考は白と赤のコントラストに捕らわれてしまっていたのだから。


「き…、きっ、拒否権は?」


 思わず声が上擦ってしまったのは、偏にスザクが恐ろしいと思うからだ。いや、スザクがでは無くスザクが行う行為が、とルルーシュは心の声に訂正をする。去年の誕生日の恥ずかしい思い出はルルーシュの中で半ば封印されていた。
 とてもじゃないが、同じ事をされて平気で居られる自信がない。
 けれどスザクはルルーシュの懇願に近い声を、キッパリと切り捨てた。


「無いよルルーシュ。君は僕の言う事を聞いていれば良いんだ。それが今一番最良の選択だと思うから。」


 部屋に戻るよ、と。スザクは唇を吊り上げて笑い、ケーキに蓋を被せて片手で奪うと空いている掌でルルーシュを捕らえた。
 さっきは両手で慎重に抱えてみせた癖に、今は少し乱雑ぎみにケーキを抱えている。
 何だその対応の差は、やっぱりお前始めから嵌めるつもりだったのか、と。幾らでも出てくる罵りの言葉は、けれどルルーシュの口からは発せられなかった。
 グルグルと回る思考回路と、引かれる力強い腕の温かさとが。
 綯い交ぜになってルルーシュを襲う。







 泣きそうな表情で涙まで滲ませた紫玉の色に、舌なめずりをする人形は手加減という言葉を知りませんでした。







遅ればせながらのルル誕話ですが、今年もまたルルーシュにとっては災いでしかないのかもしれません(笑)
ごめんねルルーシュ!!!!!!

そんな感じでの、人形パロでのルル誕でした!!!!