Belly belly
ドン、と目の前に差し出された品物。
ルルーシュは驚くと共に両手を戦慄かせてソレを凝視した。
「ソレ、は………、」
小さく呟くルルーシュをニコニコと見詰めながら、品物を手にしたままスザクは楽しそうに眼を細めた。
「うん、キーファルンバウムのフルーツタルト。ルルーシュ、好きなんだってね。セシルさんに頼んで買ってきてもらったんだ。」
僕が行く訳にはいかないから、と。
首をかしげながらもニコニコと笑顔を絶やさないスザクに。ルルーシュは感嘆のため息を漏らした。
目の前にあるのはルルーシュの好物、しかもワンホール。
それはお気に入りのお店のもので、家を飛び出してからは一度も口にしていない。
その懐かしいと言ってもいい程の、好物を目の前に差し出されて。
あぁ、と涙が薄らと滲んでしまったのを見止められたことに気がついていなかった。
「…スザク、どうして…」
どうして、自分の好きな店だとか知っているのか。
ついでに今は家出中で、しかも遠く離れた地で、おまけにドーリーで移動中。
色々な土地を彷徨っている身の上で、どうして。
「だって今日は、ルルーシュの誕生日だろう？お祝いは大切だよ。」
おめでとう、ルルーシュ。
ニッコリとそう囁かれて、両手にタルトの乗った皿を手渡された。
眼に鮮やかな赤とタルト生地の黄色のコントラストと、ふんだんに乗せられたクリームに、色合いの為のミントの葉。
あぁ、今すぐ紅茶を淹れて堪能したい。
そう、ルルーシュが瞳を輝かせても仕方が無かった。
「喜んでもらえて良かった。何が良いのか判らなかったから、ナナリーに連絡して教えて貰ったんだ。ナナリーからも新しい紅茶の葉が届いてるから、一緒に淹れようか。」
「スザク…っっ」
感極まって涙を滲ませるルルーシュに、スザクは嬉しそうに頬を染めて真っ直ぐにルルーシュを見つめる。
「ルルーシュがこの世に生まれてくれて嬉しい。本当に嬉しい。だから今日は誠心誠意、真心込めて。全身でルルーシュを気持ちよくさせてあげるから……。」
「スザ………っ、ん？？」
うれし涙を流し、スザクの手を取ろうとしたルルーシュは耳に届いた台詞の一部に疑問符を浮かべた。
今、スザクはなんと言ったのか。
なんか不穏な言葉を囁かなかっただろうか？
ジワリと薄く冷や汗が浮かぶ。
真っ直ぐに交わる翠の瞳の奥を、よくよく覗き込めば。
ソコにあるのは優しいだけの色では無かった。
「っ！！！！」
ビクリと身体が硬直する。
逃げようと身体を後退させるが、ズイと身を寄せてくるスザクの顔が間近に迫り、ルルーシュは息を呑んだ。
「……ルルーシュ、受け取ったよね？コレ、生ものだから返品は出来ないよ？」
ねぇ、とスザクはウッソリと笑う。
薄い唇が、ニィと弧を描いて吊り上がった。
「タルトと紅茶でティータイムしたら、晩御飯は僕が作るよ。それを食べたら、一緒にお風呂に入って一緒のベットで寝ようね？」
何を言いたいのか、眇められた瞳が物語っている。
逃げられないことを悟って、ルルーシュは己の迂闊さを恨んだ。
背中は壁に押し付けられていて、逃げ出せない。全てを計算の内で、退路を絶った上で話しかけて来たのかと思うと唸ることしか出来なかった。
喩え走ってこの場を切り抜けたとしよう。けれどその後ろから音速で追いかけてくるスザクの姿が想像出来て笑えない。
そしてその後に繰り広げられるだろう行為に、その逸脱した性癖にルルーシュは耐えられそうも無かった。
「…ここで返事をしなければならないの、か…？」
せめて部屋に移動するとか、何か行動を打てばあるいは。逃げることが出来るかもしれない、と。
恐る恐る、そう口にするが。
「この場で犯されたいの？」
瞬時に返された返答に、サァと血の気が引いたのが分かった。
相変わらずスザクは笑みを浮かべている。
ジワリジワリと身体を寄せてくる相手に、先ほど感謝で浮かんだ涙が違う意味で量を増すのが分かった。
視界が半濁する。
そうこうする内に距離は殆ど無くなり、顔の両脇にスザクの両腕が突き出され壁との間に挟まれた事を理解するしかない。
小さく、可愛いと呟くのが聞こえて絶望したくなった。
どうして自分は、こんなのをパートナーに選んでしまったのだろうか？
左手に持ち直したタルトの皿を眺めながら、ルルーシュは諦めの境地にいた。
「………分かった、から。少し離れてくれないか…？」
「ルルーシュ！！」
僅かに涙声の返事を聞いた途端、嬉しそうにスザクは声を上げる。
「大好きだよ、僕のマスター！！ 全身全霊で大切にする、絶対に幸せにするから…っ！！」
現在進行形で、全く大切にされていないぞ。
スザクの言葉に、そうルルーシュは脳裏で呟く。
けれど。
手に乗せられたタルトの皿。
腰に腕を廻して抱きつき頭を胸元に摺り寄せているスザクの、柔らかくも所々跳ねている栗毛。
それらを繰り返し見詰めて、ハァとため息を吐いた。
「……スザク。」
「なぁに、ルルーシュ。」
主の声に、スザクは頬を胸元に寄せたまま返事を返す。全身で嬉しいと喜びを表す姿に、仕方ないかとルルーシュは何回目になると分からない、懐柔されていると一目で分かる表情を浮かべて呟いた。
「ナナリーからの紅茶は、何処のだ？」
「ウィッタードのアフタヌーンティーとマンゴ・インディカ。」
「…今日はマンゴーの方を淹れてくれ。」
頼むから渋くさせるなよ、と。
諦めのため息と共に呟いて、ルルーシュは胸元にあるスザクの髪の毛に己の額を押し付けた。
「善処します。」
クスクスと笑いながら嬉しそうに囁くスザクの声が優しい。
今だけは、本当に優しさだけを浮かべている声色に。
ただそれだけで、絆されてしまうとは情けないと思いながらも。
とりあえずルルーシュは、ティータイムの後に訪れるだろう行為全てを全力で忘れる事にした。
たとえ時間が経つにつれ、スザクの眼の色が変わっていくとしても。
2008/12/07
２日遅れでのルルーシュパピパ小説、人形と騎士設定でお送りしました。
真っ黒枢木です。
ファティマクルルギは真っ黒なんです。
というか、ルルーシュ全然幸せじゃないですね!!!!!
なんだかんだいって、クルルギが一番幸せですねこのお話しは。
えぇと…ドエムなルルだから良いのかな。
