逃亡生活 その2
「…とうとう、か…。」
キッチンで小さく呟かれた声に、ベットに寝そべっていたC.Cとパソコンを見ていたスザクは同時に視線を向けた。
「どうした、生理でも来たかルルーシュ。」
「カビでも生えたのか?」
互いに的違いの事を呟きながら、それでも視線はちゃんとルルーシュを向いている。ガクリと肩を落としている姿に、二人は首を傾げた。
「ルルーシュ?」
スザクの声に、ルルーシュは肩越しに顔を向ける。眉根を哀しそうに寄せた表情に、二人ともどうしたのかと僅かに躯を揺らしてしまった。
しかし。
「米と味噌が切れた…。」
ルルーシュが呟いた言葉に、肩を落とす。
「お前……。」
C.Cが呆れたとばかりにジトリと睨みつけ、スザクがあぁとため息を吐いた。
2つの組織から追われる身の上になって一週間。
神根島を脱出してから、三人は混乱しているトウキョウ租界へと潜り込み、必要最低限の物品を手に日本を脱出した。
その中に、避難したのだろう無人の家からルルーシュが拝借してきた米と味噌があった。それを使い、この一週間はご飯と味噌汁(具は洋風)という食卓が囲めていたのだが。
「ライスとミソスープ位でグダグダ言うな。ピザを食えば良いだろう?」
「黙れピザ星人。」
「三食ピザはゴメンだね。」
C.Cの言葉に、ルルーシュとスザクは即時に言い捨てた。何があろうとピザを食するC.Cに、付き合っていられるかとジトリと睨みつける。
その反応に、気分を害したのかC.Cは僅かに口元を歪ませた。
「他人の家から勝手に持ってきたものを、無くなったからといって仕方ないだろうが。」
「勝手に持って来たとか言うな、緊急時には仕方ない事だ!」
「堂々と言っても内容は変わってないからな。火事場泥棒だから。」
ホントがさつに育って…とスザクが小さく呟いたのを耳にしたルルーシュは、聞き捨てならないとギッとスザクを睨み付ける。
「じゃあスザク、お前はご飯と味噌汁の組み合わせが嬉しかったとは思わないのか!?」
「…え、いや…普通に嬉しかったけど。」
「だろう!俺だってパンよりも腹持ちするご飯の方が利に適ってて良かったのに!」
そう呟いてルルーシュはシンクにガバリと躯を伏せてしまう。
「折角今日は鍋をやって最後はパエリア(雑炊)にしようと思ったのに、まさか米が切れてしまうなんて…っっ!」
失態だ、醜態だ、と。
喚き散らすルルーシュに、何だソレが言いたかったのか、と。
スザクとC.Cは視線を天井に向けてボンヤリと思った。
逃げ回る生活と云うものはストレスが貯まるものだ。それをスザクはトレーニングを黙々と続ける事で解消していたし、C.Cは言わずもがピザを食べる事で発散していた。
ルルーシュの場合は料理だったらしい。
しかも完璧主義だ、一度決めたメニューを変える事に抵抗があるのだろう。あると思っていた物が無いだなどと、ルルーシュが一番嫌いな事だ。
小まめにチェックを怠らないルルーシュらしからぬミスであり、イレギュラーに弱い性格。この2つが組み合わされ、今ルルーシュはきっと死にたいと思っている筈だ。
ヤレヤレとC.Cがベットから降りてルルーシュへと歩み寄っていく。
「喚くなルルーシュ。頭の弱い女みたいに泣き叫ぶんじゃない。」
「お前、俺をバカにしているのか。」
剣呑な雰囲気になった二人に、スザクは下手に刺激しないでほしいなと二人を見ながらも声に出さずに思った。
「他の物で作れば良いだろう?お前の料理の腕ならば枢木も文句は言わない。」
「そういう問題じゃない、C.C。主食がないということは、パンを買いに行かなければならないという事なんだ。」
察しろ、と。ルルーシュが憮然と呟くのに残る二人は首を傾げた。
「買いに行けば良いじゃないか。」
「其処が問題だと言っただろう。」
誰が行くんだ、と。ハァと吐息と共に呟かれて今の状況を思い出す。
黒の騎士団の手が伸びてきている為、不必要な外出は控えている現状。それに加えて、ルルーシュとC.Cは騎士団には顔が割れている。
そしてスザクに至っては世界に顔が知られすぎていた。
導き出される答えに、スザクとルルーシュは顔を顰める。
「…私の服の何が気に食わない?」
言いたいだろう事を的確に把握して、C.Cはそう問いかけた。
「「気に食わないのは女装だ!!」」
ピッタリと重なった声に怒鳴られ僅かに肩を竦めたC.Cの前後で、勘弁ならんと仁王立ちする二人は声高に叫ぶ。
「しかもご丁寧にウィッグまで準備しやがって!!」
「私も被る必要があるだろう?」
「だからって何で栗毛?モロ被りで嫌なんだけど!」
「売ってたのが栗毛のしか無かったんだから仕方ないじゃないか。」
「お前、買うときにスザクも着れるサイズでわざと買ってるだろう!?」
「お前たちが着れるサイズを買っていると言った方が合ってるな。三人で着れなければ意味がないだろう?」
「ナニその気遣い!? 要らないよそんなの!!」
「だからと言って、見つからない様にするには一番の変装じゃないか。現に一番近くまで寄ってきたヤツにも警戒なしに近づけただろう?簀巻きにして海に放り込むのは非道だと思うがな。」
「放り込んだんじゃない、岸壁に括り付けたんだ!
変装なら他にもあるじゃないか、何で女物を着なければならない!」
「男が男の格好をしたって姿を変えられる訳じゃないだろう?手っ取り早く姿を隠したければ逆の性別になるのが一番の変装だ。似合ってるんだから良いじゃないかお前たち。」
「似合ってたって嬉しくないよ!! イベントなら兎も角、日常生活で女装なんて素面でやっていられるか!!」
「帽子の下から覗く笑顔が可愛いそうだぞ、スザ子。」
「何でお前がその呼び名を知っている!?」
「ルル子、それはお前たちの姿を覗いていたからだ。」
「うわ、覗きを暴露してるよ!」
「ナナリーが楽しそうに教えてくれたんでな。ちなみに写真は私の荷物の中に紛れていた筈なんだが、今頃どうなっているかな。」
「なに……っっ!!」
「それって…っっ」
両側からスピーカーの如く怒鳴り声を上げていた二人が、息を呑んで言葉を止めた。
「大量のチーズ君の中に、お前たちの女装した写真も一緒に入っている。」
それは二人が顔色を青ざめさせるには十分の威力を持っていた。
「……ス、スザク…っっ」
「ルルーシュっっ」
ワナワナと躯を震わせながら見詰め合う二人に、C.Cは興味が失せたとばかりにスザクが座っていた椅子に腰掛ける。
「…ピザはまだか?」
背もたれに躯を寄りかからせて呟けば、ギラリと視線を尖らせた二人が同時に叫ぶ。
「「それどころじゃない!!!!」」
今にも日本に戻ろうと口に出しそうな二人を前に、ため息を吐いてチーズ君人形を抱きしめる。
今日はまだまだ食事にありつけそうに無かった。
「あ、アーニャに回収してもらえば良いのか!!」
散々悩んでから解決方法を思いついた二人に、C.Cは漸くかよと、鳴るお腹を抱えてベットで不貞腐れていた。
2008/09/03
アーニャはあのままスザルルサイドに居ると思うんですがどうでしょうか…?
一緒に行動はしてないけど、いざ事を起したら姿を現すんです。別働隊?そんな感じ。
スザルルシーはどうして良いのか判らなくなりますね…(笑)