その3 第一日目
「いやいや、ありえないから!!」
声高にスザクは掌を床に叩きつける。
良いからちょっと座れといわれて、2つあるベットの間の床にスザクもルルーシュも正座で座り込んだ。
「何でそうも当然とばかりに一緒に寝るとか言っちゃってるんだい?馬鹿でしょ君は?馬鹿だろ?」
「ルルーシュが馬鹿なのは今更だ。」
ベットの上で寛ぎながらC.Cが呟く。その姿をルルーシュ越しに見て、スザクはため息を吐いた。
「可笑しいだろ、家族でもない男女が一緒のベットで眠るなんて。」
何を考えているんだと、そう呟けば。目の前で不思議そうな表情で正座しているルルーシュと視線が合って、スザクは僅かに嫌な予感がするなと思った。
「……そうなのか?」
戸惑いがちに呟かれた声に、眩暈がしそうになってスザクは天井を仰ぐ。
「何、君ら今までも一緒に寝てたとか言う訳?」
ハァと大きくため息を吐けば、C.Cがゴロリと寝転がりながら頷いた。
「あぁ、流石にお前が泊まりに来た日は違う部屋で寝ていたがな。」
「…なっ、クラブハウスでもっ!?」
「当たり前だ、私は身を寄せる場所が無かったのだから。」
「ハァ?」
何だそれ、ナニソレ、と。スザクが捲くし立てるのをルルーシュは正座のまま見つめている。
「…どうして怒ってるんだ、スザク。」
キョトンとしているルルーシュに、スザクは本当に居た堪れなくなって再度大きくため息を吐く。肩を落として座り込んでいるスザクに、C.Cはチーズ君を抱きしめたまま呆れ顔で呟いた。
「何だ、私とルルーシュが一緒に寝るのがそんなに気に食わないのか?」
フフンと鼻で笑われて、スザクは眉根を顰めながら顔を上げて睨み付ける。
「当たり前だろ。」
「寂しいなら寂しいと素直に言え。」
「……スザクがか?」
C.Cの言葉に、ルルーシュは不思議そうに後ろを振り返った。
ありえないだろうと呟く声に、スザクはカチンどころかブチンと音が聞こえた気がして。
「そうだよ、悪いか!!」
大体なぁ、と息も荒くスザクは立ち上がった。
「二人だけで一緒に寝るなんて、残った方は良い気しないだろ!ていうか普通は僕の方を選ぶだろうが、こういう状況だと!」
そう言って、肩で息を吐くスザクを見上げながら、ルルーシュはポカンと口を開けて呆然としている。
「……なんだよ、昔は…一緒に寝るのなんて当たり前で。再会してからだって、当たり前に一緒のベットに泊めた癖に。」
顔を歪めて呟く様子に、ルルーシュは以前にもそんなスザクの様子を見た覚えがあって目を瞠る。
「なんだよ…もう僕とは傍にいるのも嫌だって、そう言うの…?」
力なく声を落としたスザクの表情は、俯いている所為で見上げているのにも関わらず余り見えない。それが何故か哀しくて、ルルーシュは膝を起してスザクに腕を伸ばした。
「スザク…?」
「敵だったからって…もう俺はルルーシュの隣にいられないっていうのか…?」
何だソレ、とポツリとルルーシュに届いた声はとても小さくて。
その姿が何処か、昔よく見ていた様な気がして。
肩を落としてそう呟くスザクの表情を覗き込めば、顔を見られるのが嫌だったのかビクリとスザクは肩を揺らした。
「………。」
悔しそうに顔を顰めたスザクの表情に、ルルーシュは声を掛けられない。懐かしい日々に戻ってしまった様な、そんな錯覚すらして。
ただ黙ったまま言葉を発しない二人をベットの上で見遣って、C.Cはため息を落とす。仕方ないなと小さく呟けば、スザクの肩がまたビクリと揺れた。
「二人とも、邪魔だからどけろ。」
そう言ってベットから降りたC.Cは手を振って二人に避けろと指図する。意味が判らないままに、ルルーシュが立ったままのスザクの肩を押してベットの間から抜け出せば。
ドスンと音がすると同時に、C.Cが乗っていたベットが一気にもう片方に寄せられた。
「こうすれば文句は無いだろう?」
か弱い女に力仕事をさせるなんて、と。力尽きたのか肩を落として床に座り込んでいるC.Cを、二人は呆然と見つめる。
「全く、相互理解もまだのくせに一端に自分の権利ばかりは主張するだなんて、何て傲慢なんだお前は。」
信じられないな、と吐き捨ててからC.Cはまたベットの上に寝そべった。腕にはしっかりとチーズ君を抱いて、少し眠ると呟く。
「…C.C?」
ルルーシュの声にも、C.Cは躯を更にベットに沈めるだけで。
「えぇと…。」
スザクが困惑した様子で声を漏らすのにも、既に反応しない。
「…とりあえず、真ん中の窪み、埋めようか…?」
2つのベットを寄せたのは良いが、真ん中の窪みに躯が沈み込むのは寝心地が悪いだろうと。スザクはそそくさとクローゼットの中を漁り、替えのシーツ類を取り出した。
そうしてルルーシュと視線が合うと、バツが悪そうに苦笑する。
「……傲慢だって。」
初めて言われた、と呟くスザクに、少しだけルルーシュは笑みを零した。
「そんなの…、再会した時からだよスザク。お前は自分の主張ばかりで、少しも俺たちの言葉を酌んでくれなかったじゃないか。」
その言葉が、非難ではなかったからか。スザクは同じように少しだけ笑みを浮かべると、黙ってルルーシュを見つめる。
「でもそれがお前だからな。俺もナナリーも、そんなお前だって知っていたから。…そんなお前が好きだったから、それで良かったんだ。」
お前は昔から何一つ変わっていないよ、と。
そんな風に呟くルルーシュの表情も、昔の幼い頃に戻ったようで。スザクは軽く瞠目すると同時に、持っていたシーツごとルルーシュへと腕を伸ばした。
無意識のうちに為されたその行為に、どんな意味があるのかなど。
埋められない距離を抱えたままに二人には、未だ分からなかった。
2008/09/14