もしものお話。
行政特区日本が成立して、ユフィも生きてて。ルルーシュはゼロを辞めてナナリーと一緒に、コーネリアとユフィに保護されてヒッソリと隠れながら暮らしてる、という設定。
学園の隣の大学の奥まった敷地を、買い取って家を建てて暮らしています。
あ、枢木さんも居ますよ?(笑)
『アナザーワールド』 1
バスルームから水音が響く中、ルルーシュはキッチンのカウンターに肘を付き考え込んでいた。
(…水道代を考えるなら、あまり湯を張るのは避けたい所だが…)
そう考えてから、駄目だなと顔を振る。
自分なら兎も角、清潔好きなナナリーの事を考えると、そんな事は出来ないなと思う。
仕方ないか、とため息を吐いて他の費用を節約出来ないか家計簿を見直してみる。その時、バタンと大きな音を立ててバスルームの扉が開いた。
続けて、バタバタと五月蝿い足音が近づく。
「ルルーシュ、ナナリーの準備出来たよ。」
先に入れてれば良いの?と。
茶色の髪の毛を僅かに湿らせたスザクが廊下から顔を出した。
「あぁ、先に入っててくれ。」
すぐに行くから、と答えるとルルーシュは立ち上がりシンクに向かう。
出来上がった料理の皿をダイニングのテーブルへと運んで、風呂上りには食事を始められる用にと準備をするルルーシュの背中に、分かったと呟いてスザクは背中を向けた。
パタパタと音がしてバスルームの扉の音がする。その僅か後から楽しそうな話し声が小さく聞こえてきて、フッとルルーシュは笑みを浮かべた。
丁寧に一つ一つの皿にラップをかけると、料理をそのままにしてバスルームに向かう。
扉を開ければ、脱衣所には既にナナリーの為の車椅子にはバスタオルが敷かれていて。用意の良いことだと嘆息する。楽しそうに笑いあう声が硝子戸越しに聞こえてくる中、ルルーシュは手早く衣類を脱ぐと部屋の片隅に置かれている洗濯機にそのまま突っ込んだ。これで後は洗濯機を回すだけだと、確認してからタオルを腰に巻いて扉を開けた。
「お兄様、とても良い匂いがしますよ?」
バスタブに浸かったままのナナリーが嬉しそうに声を上げる。見れば、バスタブの湯の中に細長い葉のようなものが浮かんでいた。
「…スザク?」
なんだコレ?と指を指すルルーシュに、ナナリーの隣で小さな身体を支えていたスザクは葉を一つ取り上げるとルルーシュに向かって差し出した。
「菖蒲の葉だよ。日本では端午の節句ってのがあって、こうして菖蒲の葉をお湯に浮かべてお風呂に入ったんだ。」
言われて葉の匂いを嗅いでみれば、確かに覚えのある匂いが漂ってくる。
「コレ、どうしたんだ?何処から採ってきた。」
「軍務で山の上の方まで行ったんだよ。ソコに咲いてたから、二人を菖蒲湯に入れようと思って採ってきた。」
野原イッパイに咲いてて綺麗だったよ、と。ナナリーに教えると彼女は楽しそうに声を上げる。
「行ってみたかったです。」
「うん、山頂の方だから連れて行くのは無理だけど、また幾らでも採ってきてあげるよ。」
そうしたら花は飾って、また菖蒲湯に入るのだと。
語るスザクに、ナナリーは嬉しそうに何度も頷いている。それを横目に見ながら、ルルーシュは手早く身体を洗った。
ルルーシュが身体を洗い終わったのを見て、彼が振り向く前にスザクは入れ替わる様にバスタブから上がった。勿論、ナナリーの身体をバスタブの縁に寄りかからせるのを忘れはしない。
ザブンと水が波打ち、ナナリーは隣に座った人の腕が伸びてくるのを微笑んで迎え入れる。
「お湯の中に浸かるだけでもとても気持ち良いのに、こんな風にお花の匂いをさせるだなんて。日本の文化はとても素敵ですね。」
「そうだね、今まではバスタブにお湯を張っても肩まで浸かれる造りじゃなかったからなぁ…。」
思い切って日本式にして良かったよ、と。ニコニコと笑いあう兄妹に、スザクは身体を洗いながら苦笑いを浮かべた。
「流石に檜には出来なかったけどね。」
「あぁ、ソコだけは不満だ。」
スザクの言葉に、途端に不満そうに顔を歪めた兄を見て、ナナリーはフフと小さく笑った。
「我侭は駄目です、お兄様。」
その言葉に、ルルーシュは口ごもる。
度重なる戦災で、森林は焼けてしまったのが殆どで。今は植林をして以前と同じに戻そうと取り掛かっている所なのだ。個人の我侭で、数少ない檜を切れとは言えない。
新しい世界で、一番に取り組まれたのはイレブンと呼ばれた日本人達の以前の姿を取り戻す事だった。特に貴重な技術を持った職人や、彼らの作品を生み出す為の原材料の確保。檜など優れた木材や貴重な絹、その他諸々の無くなってしまいそうな伝統を総ての人々に返すという事。気の長くなるような期間のかかるその行動を、気後れする事なく口にして行動に移した異母妹には、頭が上がらないと思う。
そこまで考えてから、視界の端でスザクが片隅に置かれていた小さな背もたれ付の椅子を洗い場の真ん中に移動させているのが見えて。
「ナナリー、身体洗うよ?」
スザクの声に、ナナリーが静かに頷く。ルルーシュはそんな彼女の身体を抱き上げて、椅子の上に座らせた。
身障者用に誂えられた椅子は、背もたれが腰の部分にしかついていない。
「背中出すからね。」
優しく呟いて、スザクがナナリーの身に着けているラップバスタオルのスナップを外した。
背中だけを顕わにして、スザクはルルーシュからボディーソープの泡立てられたボディタオルを受け取ると、丁寧にその背中を拭っていく。
一人では手の届かない部分を酌まなく拭うと、シャワーで泡を落とし、またバスタオルを元に戻す。
「ハイ、ナナリー。」
そうしてから、ナナリーの手にタオルを手渡して自分は湯船へと入ると背中を向ける。
「ナナリー、平気かい?」
「大丈夫ですよ。」
隣では心配そうに呟くルルーシュが見えて、過保護だよなぁとスザクは口にはしないで嘆息した。
ナナリーが身体と髪を洗い終わると、次はスザクの番。
「スザクさん、寒くないですか?」
「平気。」
椅子に座ったままのナナリーの前に座り込み、頭を預ける。スザクとルルーシュの髪を洗うのがナナリーの担当だ。
スザクが終れば、ブルブルと水気を切る為に首を振るスザクを二人で笑って、ルルーシュと交代する。
そうして交互に洗い終われば、ルルーシュがナナリーを抱え上げてバスタブに入れる。その間に椅子を片付けるのはスザクの仕事。
この生活を始めてから習慣付いた役割分担は、意義を唱えられる事なく続いている。
三人が浸かっても平気なように、バスタブは大き目なモノを設置していた。
「よいしょっと。」
最後にスザクがバスタブに入り、二人はナナリーを間に挟んで体勢を崩さない様にと支えあう。三人で浸かれば、お湯は丁度ナナリーの首元まで水位が上がる。肩を冷やさない様にと、計算された水量だ。
ルルーシュとスザクは一息ついたとばかりに背中をバスタブに付けて体の力を抜いた。
「お湯、気持ち良いですね。」
「あぁ、本当に。」
「やっばり湯船に浸かるのは最高だよね。」
三人が口々にそう呟けば。バスルームの外側から、小さな物音がしたのにスザクが気づく。
そして身体を揺らしたスザクを見て、ルルーシュはスザクが何かを察知したのだと分かり、同じようにバスルームのガラス戸を見つめた。
そうすれば、いきなりバスルームの扉がバタンと開いたかと思うと、人影がガラスに映る。
侵入者かと身を固くしたルルーシュだが、良く考えれば万全のセキュリティを施している為、合鍵を持っている人間以外は入ってくる事は出来ない。
ならば、相手は合鍵を持つ二人の内の一人だろうと。瞬時に判断している間に、硝子戸がバタンと開いた。
「ずぅぅぅっっるぅぅぅぅいぃぃぃぃっっっ!!!!!!」
そんな絶叫と共に、桃色の髪の毛が翻る。
「ずるいですわぁぁ!!!!私もルルーシュとナナリーと一緒にお風呂に入りたいのにぃぃぃぃっっ」
スザクだけずるいです!!
両手を握り締めて絶叫する、その姿に。ルルーシュもスザクも唖然とその姿を見上げた。
アレ、玄関の鍵かけてなかったっけ? とスザクが頭の中で呟く。
合鍵あるから入って来れるだろ、とルルーシュがソレに対して突っ込めば、どうして通じたのかスザクはそうかと何故か納得して。
どうして彼女がココにいるのかな?と二人は真っ白な頭で呟いた。
「…ユフィ!!!!」
肩で息を吐き立ち尽くすその後ろから、焦った声が響く。
「お前…入浴中に入り込むだなんて不躾な事を…っっ」
「だって…、コーネリアお姉さまっっ」
すまない、と言葉を続けて顔を出したその人は、中の様子を見て言葉を無くした。
そのまま、何が起きているのか分からずに首を傾げるナナリーを残した四人は、バスルームの内と外とで黙り込む。
「……ルルー、シュ…?」
「…何ですか、コーネリア姉さま。」
「あの……一つ聞いても良いか?」
何処か言い難そうに呟くコーネリアに、呆気に取られたままルルーシュは首を傾げる。
「何で………三人で入浴してるんだ?」
その言葉に。
何で、何で、何で?と三人は頭の中で呟いて。そうして。
「節約です。」
「エコです。」
そう呟いたルルーシュとスザクの後に、ナナリーはにこやかに笑って呟いた。
「仲良しだからです。」
そんな問題なのだろうか、と。コーネリアは呆然としたままで思った。
2008/05/28
もしもの世界。
8話を見てしまったら、こんなのしか思いつきませんでした……。
ナナリーはお風呂時はラップバスタオルを着用。ラップバスタオルってのは、小さい子が水泳の時に使用する、スナップで円形になったバスタオルです。
さすがに裸の付き合いは三人では無理デショ……。