《prisoner》
17話発生、ルルーシュが捕らえられていたらのIf話。一応、スザゼロとしていますが、普通にスザルルで良かったような気がしています(汗)
シュン、と音がすると同時に靴底の感触が柔らかい何かを踏んだ。室内に入ったのだと判ったのは、被せられていた上着が取り外されたからだ。
「……ス、ザク…。」
目の前には、境内にいた時と同じように嫌悪に顔を顰めたスザクの姿があった。
掠れた声が名前を呼ぶのに、更に眉間の皺を寄せてスザクはルルーシュをただ見つめていた。
その顔が、不意に泣き出しそうに歪んだのと同時に。腕を引かれて部屋の中を足早に移動する。
「…っ、スザクっっ」
押し込む様に身体を投げ出され、狭い空間の中で壁に背中を打ちつけた。痛みに顔を顰めれば、カチリとロックする音が聞こえてくる。
連れ込まれた場所は、バスルームだった。
「何を……っ、」
放り込まれて床に強か腰を打ちつけている。痛みもあるが何故にこんな場所に連れて来られたのかを問いかけようとすれば。
「部屋の中では盗聴される危険があるから。手っ取り早く話が出来て、そんなに広くも無い空間って言ったら此処くらいしかない。」
だから我慢して、と。目の前に座り込みながら、スザクはそう呟いた。
「…話? これ以上、何の話がある?」
ふざけるな、と。自嘲の笑い声が唇から漏れる。
「二度ものゼロの捕縛、おめでとう。しかし、俺を捕まえたからと言って今更だ。もう黒の騎士団はゼロだけの組織ではない。上に立つ者は他にも存在する。一つの記号が消えたからと云って、組織自体が消える訳ではない。」
ゼロが居なくても組織は動く。
そう呟いて、ルルーシュはスザクの顔を真正面から見つめた。
「…なら、ナナリーはどうするんだ?」
静かな声が、スザクの口から発せられる。
「っっ!!」
ヒュウと息を呑む音が辺りに響いた。内心の動揺を見つめられ、ただ視線を逸らすしか出来ない。
間近に迫るスザクの表情を、直視する事が出来ずに俯く。
途端、顎を掴まれ無理やりに正面を向かされた。
「ぃ…っっ」
グイと勢いよく顎を上げられて小さく声を上げてしまう。けれどその声は向けられた瞳によって飲み込んでしまう。
「…っ、ルルーシュ…っ」
酷く顔を歪めて、痛みにでも耐えるように。
スザクは何かを逡巡するように何度も顔を上げては俯いてを繰り返す。その度に息を呑んで、何度も何度も。
何かを言いたいのだろう、けれどもそれを口には出せず。何度も顔を上げては視線を俯かせるスザクの姿に、ルルーシュは思わずその肩へと掌を伸ばした。
薄いシャツ越しに、引き締まった筋肉の硬い感触が判る。この一年で、元より筋肉質だった肉体は更に鍛えられたのだろう。
硬い感触が、スザクが軍人なのだという事を物語っていて。再会した直後もソレに気づき、泣きそうな感傷を抱いたのを覚えている。
頭の中で、警告が鳴る。
裏切られたのだと、情など切り捨てろと。囁く声があるというのに、同時に『もう一度』と告げられた言葉が頭の中を支配するのだ。
俯いた頭を抱くように肩に乗せれば、抵抗なくスザクは額を押し付けてくる。
さっき、取れなかった腕が今此処に。直ぐ傍にある。
なのにどうして。
投げ出されるように床に落とされた両腕を、掬い取ろうとしないのかとルルーシュは自身に問いかけた。
それはきっと。ほんの数十分前の出来事なのに、今この腕を取ったとしてもあの時と同じ気持ちにはならないだろうと、判っているからだ。
スザクも、ルルーシュも。
だからその腕は、ルルーシュに伸ばされる事はない。脱力したように、両腕を投げ出したままスザクはルルーシュの肩にその顔を埋めている。
「…な、にを…っ」
している、と。呟いた声は小さく消え入りそうだった。
僅かに震えている声が、自分でも信じられない。
未知の感覚に対する恐怖が、ゾクゾクと身体の奥から湧き出してくる。
コレは何だ、と。目の前のスザクに問い詰めたくなる衝動を必死に堪えた。
「……何だろう?」
首を傾げてくるスザクの態度に、ルルーシュは言葉を無くした。
人を壁に押し付け、身体を拘束している人間の言う言葉なのかと。頭の中では幾らでも罵倒出来るというのに、実際に口には出てくれない。
身体が自分の物ではないような感覚だった。
思う通りに動かない。それが恐怖に竦んでいるのだと気がついたのは、皮膚を這う生温い感触に身体が跳ねた時だ。
鎖骨の周囲を舐められていると理解出来たのは、見下ろした視界の先でスザクの唇から赤い舌先が見えたから。
ビクビクと身体が勝手に震え始める。何をされるのかを理解したくなくて、ルルーシュはギュっと瞳を閉じた。
「…目、閉じていいの…?」
勝手に色々としちゃうよ、と。スザクが話す吐息が皮膚に掛かる。その場所が唾液で濡れているのが、吐き出される息で冷えていく為によく判った。
「な、にが…っっ」
したいんだ、と。漸くそれだけを呟けば、不意にスザクの動きが止まる。
「何だろう…。」
判らない、とスザクは呟く。
「ただ…、今は。」
組み敷いて皮膚の隅々まで暴いてしまいたくて仕方ない。
淡々と呟くスザクの表情に、感情は浮かんでいなかった。
「あぁ…コレが征服欲とでも言うのかな?」
そう呟いた時に、浮かべた表情はルルーシュを恐慌に陥れる。酷く楽しそうに、嬉しそうに。それなのに瞳だけは獰猛な色を浮かべていて、ルルーシュは思わず自分の首元を掌で押さえた。
今にも、噛み付かれるような錯覚。それが何なのか、自覚するしかないのだと身体の震えは伝えている。
「止、め…っっ」
それでも、逃げようと逃げたいと頭の中で警告音が鳴り響く。
危険だ、と。目の前のスザクが酷く怖いと思うのに、脚が全身が動いてくれない。
力強い腕が、身体を引っくり返して俯かせられる。壁に頭が付く程に身体を密着させられて、逃げられないようにか腰を押さえられた。
次の瞬間、触れてきた掌を感じた場所に背筋が凍った。
「スザク…っっ、止めろ!」