『沈黙の庭園』の次の日のお話。
「あ、」
「え…」
「お?」
総督府の一角に誂えられた庭園の中で、三人三様に口を開く。
一人は驚きに目を瞠り、一人は嫌そうに眉を顰め、一人は楽しそうに笑いながら。
開口一番の声を発した後は、黙り込んだまま互いを見つめ。
「「「…………」」」
我先にと、庭園の出口を目指す。
「オイオイ、スザク。何をそんなに急いでるんだ?」
「別に?急いでるのはアーニャじゃないの?」
随分一生懸命に歩いてるじゃないかと、左側にいるアーニャの頭を見下ろしながら声をかければ。
「スザクより先に行きたいだけ。」
そう言って、二人に比べれば半分走っているというような状態で、前を見据えている。
廊下をズカズカと足音を立てながら歩く三人に、すれ違った職員達が不思議そうな視線を投げつけるが。前を行く事だけに集中している三人は気づかない。
三人が目指すのは執務室だ。
一人は昨日の失態を取り返す為に、一人は昨日の様子を気遣い、一人はただ花を贈る事に喜びを感じて。
そして、数日内には任務の為にこの地を離れなければならない事を伝えるために。
「そうなのですか……皆さんが行かなければならないと云うことは、本国は中華連邦との繋がりを重要視しているのですね。」
執務室で、同室していた女性を追いやり話を始めれば。少女は眉を僅かに顰めてそう呟いた。
けれど、と。
続けられた言葉に、三人は無意識に表情を和らげる。
「どうか、お怪我などなさらないで下さいね。…無事に任務が終るよう、お祈り致しております。」
少女の労わりの心に、三人は顔を見合わせて。
「ナナリー、独りで大丈夫かい?」
「えぇ、平気です。私これでも、強くなったのですよ?」
スザクさんは心配性です、と。クスクスと笑う少女の笑顔に、スザクは苦笑を浮かべた。
「総督、寂しくない?」
私、残ろうか?と呟くアーニャの言葉に、スザクとジノは驚いた顔を向ける。
「そんな事…アーニャさんは、ラウンズとしてのお仕事を一番に優先しなくてはならないのですよ?」
ありがとうございますと微笑む少女に、アーニャは僅かに瞳を伏せてしまった。
「総督へのお土産を沢山用意して戻ります。楽しみにしていて下さい。」
ジノがそう言えば、少女は嬉しそうに笑いながらも不意に視線を落とす。
「…楽しみにしています、ジノさん。でも……皆様は皇帝陛下の騎士です。このエリア11での任務だけがお仕事ではないのですから……戻るという言葉は、お使いにならないで下さい。」
その言葉に、驚いたのは三人共にだった。
「え、僕は戻ってくるつもりだったけど。」
「…総督、戻ってきちゃダメ?」
「まぁ…スザクは兎も角、私とアーニャは勝手に付いて来た身だから我侭は言えませんが…。」
当たり前とばかりに呟くスザクに、肩を落として小さく呟いたアーニャにうぅむと考え込むジノの様子に。
少女は戸惑いの表情を浮かべる。
「でも……。」
皆様はナイトオブラウンズ、皇帝騎士なのです、と。
呟く少女に、三人三様に顔を上げて。
「ですので、数日内には中華連邦へ向かいます。けれど、任務終了後の事は指示されておりませんので。」
此処に戻って来ても宜しいでしょうか?と。
ジノが問いかければ、少女は僅かに逡巡してから。
「……お待ちしております。」
そう、綺麗に微笑んだ。
ほっとした様に吐息を漏らしたアーニャを横目に、スザクとジノは笑って。ゆっくりと三人は正面に座る少女に向き直った。
「さて……ナナリー総督。」
「お手をどうぞ、ナナリー。」
「お花、受け取って貰える…?」
車椅子の前に跪いたまま、三人は手に取った花を差し出す。
その三つの掌に、少女の細い指先がそっと優しく差し伸べられた。
ナナリー大好きなラウンズトリオが大好きです…。
本編展開無視でも良いですよね…?妄想だもんね。
2008/06/15