ss11 携帯話、三度。
    アナザワールド設定です。





















 パサリと乾いた音を立てて目の前に置かれたモノに、ルルーシュは僅かに首を傾げた。


「……携帯、変えるのか?」


 マントを脱いで椅子へと置きながらスザクはその声に顔を向ける。


「あぁ、チョット…。」


 そう言って苦笑する。
 青紫の携帯がラウンズの制服から取り出され、テーブルの上に乗った。


「僕の、落として傷だらけにしちゃったじゃないか。新しい機種が出たみたいだしと思って、パンフレットだけ持って来といたんだ。」


 椅子を引いて座り、インナーの襟を寛がせるスザクの前に、ルルーシュは用意したカップを差し出す。中には暖かな液体が湯気を立てている。
 隣に座りながら、ルルーシュは自分の分のカップに口を付けた。
 キッチンのカウンターに座り、パンフレットを開き始めたスザクに頭を寄せながら中に目を通す。


「…機種変更してから一年しか経ってないじゃないか。」

「でも、この傷酷いじゃない…?」


 そういうスザクの携帯は、所々に抉られたような傷が付き、塗装が剥がれた部分が目に付いていた。


「後ろポケットに入れるからだろ。」


 落とすって何度も言ったのに。そうルルーシュが呟くとスザクは肩を竦めた。
 出かける度に携帯を落としては気落ちしていたのを、ルルーシュにもナナリーにも何度となく晒している。


「次からは気をつけるよ。だから、ね?」


 どれが良い?と問いかけてくる様子に、今度はルルーシュが肩を竦めた。


「俺はこの機種が気に入ってるんだがな…。」


 そう言って取り出した携帯は、スザクによって選ばれたものでナナリーとは色違いのお揃いだ。
 薄型だし扱いやすいし、とルルーシュは自分の携帯を眺める。


「でも、一緒に変更しない?」


 今度は気に入った機種があるかもしれないよと、スザクはパンフレットを眺めながら問いかけてくる。
 一応問いかけてはいるが、スザクの中で一緒に変更するのは決定しているのだ。ルルーシュは本当に小さく吐息を付いてから、パンフレットを捲るスザクの隣で中に目を通す。
 パラパラと紙を捲る音が響く中、キッチンから鍋からの匂いが辺りに漂い始めた。


「……何か気に入ったのあった?」


 頭を引っ付け合ったままスザクが呟く。


「んん…、微妙だな。」


 元々、機能云々はあまり気にしない方だ。操作しやすいかどうかだけが気になるから、自分で手にとってみた方が早いかもしれない。
 そう思いつつルルーシュはスザクへと問いかけた。


「お前はどうなんだ?」

「僕?コレ。」


 そう指差された機種は、ウォータープルーフを謳った機種。


「…お前本当に、見た目だけで選んでるだろう?」


 濃い紫色のその携帯を見て、ルルーシュは呆れた様に呟く。
 しかも今まで使ったことのない機種なのに、躊躇いもなく選択するのが可笑しい。
 そう想いつつも、機能に目を通す。


「だって綺麗じゃない。見た目も重要だと想うんだけどな。」


 スザクが呟くのを聞きながら、ルルーシュは気になる機能の説明に視線を走らせた。


「…カメラの画素数が少ないな。」

「んー、それはあまり気にしないかな?」

「ディスプレイの大きさは変わらないか…、しかし水の中でカメラを使う必要が何処に?」

「あぁ、それは必要ないよね。」

「…今のよりも性能が良いとは言えないかもしれない。」

「そう?」


 そうかぁと呟くスザクに、ルルーシュは今の携帯と同じ機種の新ラインナップに目を通す。


「…コッチは外側が気に入らないんだな?」


 スタンダードな色の種類しか無いのを見て、性能は良いと思うんだがなと呟いた。
 ジッと紙面に視線を向けて考え込んでいるルルーシュを見つめてから、スザクもまた紙面に目を落とす。
 画像を見る限りでは、やはり当初気になった紫の方が良いと思うのだけれどと考えつつ、現機種の新ラインナップの性能に視線を走らせた。
 付き合わせた頭部から温もりが伝わって来る。パラパラとパンフレットを捲っていたルルーシュが、ある場所で手を止めた。


「あ、駄目だスザク。」


 唐突にルルーシュは切り捨てる。
 どうしたんだろうとスザクが見つめていれば、ルルーシュは僅かに顰めた表情のまま。


「GPSが付いてない。」


 はっきりとそう言い切ったルルーシュを、スザクは一瞬呆然と見つめてしまった。


「って、えぇぇっ、君がそれを言うの?」


 驚いてそう問いかければ、隣からフンと鼻を鳴らした音が聞こえてくる。


「当たり前だろう、お前みたいに直ぐに姿を消す奴をどうやって見つけ出せと?」


 それは買い物に行っても見て回る速さが違うことを指しているのだろうか。スザクは少しだけ反省した。


「だからコッチにしろ。機能も充実してるし性能も良さそうだ。」


 そういって、今使っているのと同じメーカーの新製品を指差す。


「でもコレ、色が……。」

「あんまりグダグダ言うと、ピエー○エルメのマカロン携帯にするぞ。」

「何それ……、あ、あのポップな感じの…?」

「ちなみに色はオレンジだ。」

「チョッ、せめてホワイトにしてくれない?ていうか、そうなったら君は何にするのさ。」

「もちろんダークブルーだ。ナナリーはピンクだな。」

「うん、ナナリーのピンクは賛成だけど。ていうかこの機種新しくないじゃないか。」

「機能どうこう問わない癖に煩い奴だな。あ、でも駄目だコレもGPSが無い。となるとやっぱりコレだスザク。」


 ビシっと指差されたのは、やっぱりスザクが色が無いといった、同メーカーのもので。


「…うぅーん、何か…コレって決定出来る要素が少ないんだよね。」


 外見がいまいち決定打に欠ける、とスザクは首を傾けて考え込んだ。


「なら、今のままでも良いじゃないか。また新しいのが出たら考えれば良い。」

「だって、この紫のが気になって仕方ないんだよ。」

「GPSが無いから駄目だ。」

「だからソコなの???」


 頑なにその一点に拘るルルーシュに、スザクは情けなくも眉尻を下げる。










 結局、機種変更は持ち越しになりました。





2009/06/16


携帯のカタログ見てるとどうしてもスザルルで書きたくなる不思議……。
水の中で写メは撮らないよねって、私も突っ込んだです。(笑)