お怒りモード、スザクさん。












「両膝を床に付けたら、足指まで綺麗に真っ直ぐ伸ばす。」


 指示を出す青年は、おどろおどろしい雰囲気を醸し出していた。背後からドロドロと、粘着質の何かが溢れ出そうな気がする。


「そうしたら、ゆっくりと踵に腰を下ろして。…あぁ、踵は揃えたまま、横に寝かせない。」


 眇められた瞳の色が、笑ってはいない。


「両手は膝の上で握る。本当はそのまま軽く腰を浮かせるのが正式なんだけど、君達には無理だから踵に体重を乗せてしまっていいよ。」


 ニコリと人好きのする笑顔の後ろで、得体の知れない何かが蠢いている。夕焼けの色が翳む位には、生徒会室には暗い空気が充満していた。


「これが、この国の伝統的スタイル『セイザ』だよ。どう? 精神統一にも良いし、何より…。」


 スゥ、とその表情から笑顔が一瞬消えた。


「反省を促すには、もってこいの体勢だろう…?」


 口元だけ上げて笑みを作った顔は、以前資料で見た『ハンニャ』にも等しい。
 鬼だ。
 鬼がいる、と。彼の目の前から逃げ延びたリヴァルとシャーリーは顔を青ざめさせた。
 その鬼の真正面に座らせられている背中が、僅かに揺らぐ。
 金色の髪の毛が夕日に照らされてオレンジ色に見える。その隣では、既に身体を震わせ始めた茶髪の少年が肩を竦ませていた。


「スザク、あの……。」

「言い訳は聞かないよ。聞くつもりもない。」


 ハッキリと言い捨てられて、ガクリと金糸が揺れる。追い討ちをかける様に、その後頭部にスザクは言い放った。


「頭は下げない!」


 ギラリと眼光が光った気がする。


「背筋を伸ばし、一メートル前を見る。それが基本姿勢だ。」


 慌てて顔を上げた青年をジロリと睨んでから、スザクはその左隣に視線を投げた。


「アーニャ、君は良いんだよ?」


 隣でピンクの髪の毛を結い上げた少女が、律儀に同じ体勢で座っている。


「…ジノを止めなかったから、同罪。」


 自主反省、と。無表情で呟く少女に、スザクはため息交じりに呟いた。


「じゃあ、辛くなったら止めなね。」


 少女がコクリと頷くのを見て、視線を正面に戻す。
 眼下に見える金髪と茶髪。その身体がブルブルと目に見える程に震えている。そろそろ、慣れぬ体勢に足の神経が根を上げているのだろう。
 スザクはスゥと目を細めてそんな二人を見下ろした。




 事の発端は、些細な言い合いらしい。
 ランペルージ兄弟の仲の良さを揶揄したジノにロロが突っ掛かっていき、口論の末に兄であるルルーシュの腕を両側から引っ張り合うという行動に発展。(何故かは判らないが)
 余りの勢いの良さに、ルルーシュが目を回しフラフラに成りながら左右に引かれているという状態を。
 遅れて生徒会室に来たスザクが発見した、のが悪かった。
 一瞬、目を丸くさせたかと思ったら、もの凄いスピードで三人の元へと駆け寄り。

『……ナニ、やってるの…?』

 氷よりも低い温度のスザクの声で、漸く二人のいがみ合い(ジノはスキンシップのつもりだったらしい)が止まったというわけだった。
 真っ直ぐに立てない状態のルルーシュの腰を抱えて、スザクはジノの手首をギリギリと掴んでいた。これがロロじゃなかったのは、体格差からだろう。
 しかしながら次の瞬間ロロにも向けた表情は、ジノに向けられた物と全く同じだった。
 その余りの眼光に、二人は思わず手を離したほどだ。

『ルルーシュ…、ルルーシュ、大丈夫?』

 対して、腕の中でグッタリしているルルーシュに向けてスザクは酷く優しい声をかけた。その豹変さにジノがブルリと身体を震わせている。
 そっとルルーシュの頬に手を寄せると顔を上向かせて覗き込む。眼球が左右に小刻みに揺れているのを見て、スザクは眉間に皺を深く深く刻み込んだ。
 真横からその表情を見る事になったジノとロロは、一瞬で顔色を失う。

『…二人とも、其処に座れ。』

 地を這う様な声色。それが合図だった。




 腕組をしながら見下ろすスザクに、三人は声が掛けられない。遠くから見守っているリヴァルにシャーリーにしても同然だった。
 スザクの後ろには、ソファに横になったルルーシュが額を押さえている。


「…スザク、俺なら別に…平気だから。」

「甘いよルルーシュ。」


 ルルーシュの弱々しい声を瞬時に切り捨てて、スザクは眼光を強めた。視線が痛いとはこの事だろうとジノもロロも想う。


「やって良い事と悪い事の区別はきちんと躾けないと。そんなんでこの先ロロが、些細な理由で他人に刃物を向けたり、然も相手が悪いとばかりに人を殺して歩いたりしたらどうするのさ。それで泣き崩れる君なんて見たくないよ僕は。」


 何だその具体的な例は。そう口に出来る人間はこの中には居ない。
 些か物騒な事柄をさも当然と言い切るスザクに、突っ込む事すら出来ない。


「ロロに限って、そんな事は…っ」

「そういう事を言ってるんじゃないんだ、ルルーシュ。」


 ロロを庇うルルーシュの声に、スザクは漸くルルーシュに振り向いた。今までずっと眼下を睨み付けていたため視線の合っていなかったルルーシュは、その時初めてスザクの表情を見た。
 心の中で、小さく悲鳴を上げてしまう。
 暗雲立ち込める、といった形容が相応しい。
 何に対してそうまで怒っているのか判らず、ルルーシュがオドオドと視線を外してしまったのを見てスザクは不機嫌そうに瞳を眇めた。


「甘やかしは善悪の分別も出来ない人間を作る温床だよ。君は自分の兄弟をそんな風にしたいの?」

「いや、それは…。」

「なら黙ってて。僕は君の相手をしてるんじゃない…。」


 そう言ってからスザクは身体の向きを直し、足元に正座する三人に視線を戻した。


「この、常識知らずな年下に灸を据えてるんだから。」


 出来れば自分は言われたくない言葉だ、と。ルルーシュにリヴァル、シャーリーはひっそりと思った。






















「ゴメンなさい、ルルーシュ、先輩。」


 早々にギブアップしたアーニャが、ソファに座りなおしてスザクの背中越しに正座の二人を見つめているルルーシュの隣に座って謝罪を口にする。


「いや…気にしないで…。」


 しょんぼりと肩を落とすアーニャに、ルルーシュは手を振って気にしないと告げる。しかし笑顔を向けても、すまなそうにする表情を変える事は出来なかった。


「……スザクさん、あの…。」


 ブルブルと身体を震わせて、漸く口を開いたという様子のロロに。スザクはギロリと視線を向けただけだ。
 ヒィ、と小さい悲鳴がロロの口から漏れる。


「あのさ…スザク。もう、本当に…足の感覚が変なんだが…。」


 同じように身体を震わせて、ジノが情けなく表情を歪めてスザクを見上げた。


「ナニ言ってるんだ、ジノ。」


 そんなジノに、スザクはニッコリと真っ黒い笑みを向ける。


「板の間三十分に、畳四十五分。此処は板の間じゃないけど、三十分にはまだまだ遠いよ。まだ五分しか経ってないじゃないか。」

「え……ソレもイレブンの伝統なのっっ?」

「礼儀作法だよ。」


 ニコニコと黒い笑みでスザクは笑う。その笑みが、決して笑っていないのを知っているからこそ。
 残るメンバーはスザクの怒りが収まるのを只管、神に祈ったという。





















(僕の)ルルーシュに何してんだよ、このまま具合悪くしたらどうするつもりだ、死ぬ覚悟は出来てるんだろうなぁ???




ということを言いたいわけですよ、枢木さんは。

これは俺スザクになるんでしょうか…。
いや、ツンツンスザクだと想うんだけどどうでしょう。


ミレイさんが居なくなってしまったので生徒会室はこんな感じになってると思う。
突っ込み役が居ないって痛手だね。










2008/07/02