『アナザーワールド』のスザルルナナです。
ユフィ生存の行政特区成立な世界。三人でお家を建てて暮らしています。そんなホノボノ世界。
『お前が間違っていたんだ!』
冷たい声が聞こえる。
それが自分が言った言葉なのだと理解したのは、目の前の彼が酷く憤った表情を浮かべたからだ。
辛い。
何で自分がこんな事を言っているんだろう。
何で彼と対峙しなくちゃいけないのか。
なんで、どうして。
(あぁ、泣きそうな顔をしている。)
真正面に立つ彼の瞳が、怒りに揺れている。
あれは泣き出したい時の表情だ。
自分には判る。
なのにどうして自分は、彼にこんなキツイ言葉を投げつけているんだろう。
存在を、否定する言葉を吐かなくてはいけないのか。どうして、どうして。
紫の瞳が氷ついていく。
どうして、どうして?
『「ルルーシュ!!」』
名前を呼んだつもりが、叫び声にかき消された。
「…ザク、スザク!!」
肩を揺さぶられて、名前を呼ばれたのだと気が付いた瞬間に、瞼を開く。
視界いっぱいに、黒髪と紫の瞳が広がる。
「どうした?うなされてたぞ。」
大丈夫かと心配気に尋ねて来る表情の隣に、同じ様に顔を歪めた少女が見えた。
転寝をしていたのだと、漸く思い出す。
リビングのラグの上で、眠気を覚えた所から記憶がない。
そうか、夢だったんだ。
そう思ったと同時に体の力がガクリと抜けた。
「…おい、」
頼りない指先が、眦を撫でていく。
「嫌な夢でも見たのか?」
見開かれた瞳が、不思議そうに揺れているのが見えて。
どうしたのだろうと彼に指を伸ばせば、眉をしかめられた。
「泣いてるぞ、スザク。」
自分で分からないのか、と。小さく呟くのは、後ろにいる少女に知らせない為なのだろう。
「スザクさん、どうかしたんですか?」
心配そうに顔を向けてくる少女を振り返り、また顔を伺ってくるその瞳の色に。
「……っっ、」
ブワリと溢れた涙が邪魔をして、良く見えない。
二人が、見えない。
「…ルルーシュ、ナナリー…」
声が震えてる。
搾り出す思いで漸く口にするのと同時に掌を伸ばせば、間発なく延びてきた二つの掌が包んでくれる。
暖かさに、余計に涙が溢れた。
「どうした、スザク。」
「スザクさん?」
後から後から涙が溢れ出して、皮膚の上を零れ落ちていく。
どうしよう、と。ただそれだけを思った。
今、こうして掌を握り締めてくれている二人が、夢だったら。目が覚めたらまた独り、冷たい世界に居るのだとしたら。
「…怖い夢を見た、んだ…。」
泣いている自分を見ていたルルーシュの表情が、酷く歪んでいて。どうしてそんな顔をするんだろうと、君の方が泣きそうな顔をしているなとボンヤリと思った。
「怖い? どんな夢だ。」
話した方が楽になるぞと、彼はゆっくりと頭を撫でてくれた。暖かい掌の感触に、涙は止まらない。
「もの凄く怖かった。ルルーシュと僕とが敵対してて。」
「…してただろうが、実際。」
「うん、そうなんだけど…。それよりももっと、酷かったんだ。凄く憎みあってた。僕とルルーシュが。銃を向け合って、罵り合って。何でだろう…僕は君に、君の全てを否定する様な言葉を投げつけて、それでも君は真っ直ぐに前を見据えて主張するものだから僕は……。そんな君が憎らしくて仕方なくて、それで…。」
怖い。
そう呟けば、握られた掌の力が増す。
「怖いよ、ルルーシュ、ナナリー。君たちがいなくなる夢だ。僕は僕の主張で君達を引き離すんだ。失う位なら、自分が死んだほうが良いって判っている筈なのに、僕は…。憎くて仕方なくて、もうドロドロな精神のままで銃を撃つんだ。ルルーシュを拘束して、皇帝の前に差し出して。そうやって僕は独りになって…。」
言いながらもボロボロと涙が溢れてくる。止められない。
「…凄く辛かったんだ。ルルーシュが僕を裏切った。ルルーシュが…僕に、嘘を…っっ。君の言う言葉の一つ一つが信じられなくなって、それでも信じたくて仕方なくて。ルルーシュを許したいのに、また裏切られるのかと思えばそれも出来なくて、でもそう言葉で言い募る事も出来なくて。……擦れ違って、離れ離れのままで…、やっぱり僕は独りになるんだ。」
耐え切れなくて、喉からしゃくりあげる声が漏れてしまう。途端に、ナナリーの握る掌の力がキュウと強くなった。
「酷いよ、酷い。自分が許せないよ、ルルーシュ、ナナリー。君達を犠牲にしておいて、周りがドス黒い世界に変わってしまっても、それでも僕は許せないってルルーシュを罵るんだ……っっ」
怖い。
酷い。
辛い。
哀しい。
淋しい。
そう呟いて、声を上げてしまう。
子供みたいに、泣きじゃくりながら声を上げて。
涙を溢れさせながら、二人の掌をギュウと握り締めた。
「…大丈夫ですよ、スザクさん。」
ナナリーの優しい声が響く。
「それは夢です。今のスザクさんは、お兄様と私を一番に護って下さってる。昔の様に、私たちを護ってくれています…。」
そっと伸ばされた指先が、目尻をなぞっていく。
「安心して下さい、私たちは傍にいます。今、こうして掌を握っていますでしょう?」
溢れて止まらない涙を拭う指先の動きが心地よくて。優しい響きの声色が嬉しくて。ナナリーをジッと見つめれば、彼女は楽しそうに笑った。
「それにね、スザクさん。スザクさんがお兄様と私を護って下さる様に、お兄様もスザクさんと私を護って下さってる。だから、お兄様とスザクさんの事は私が護るんです。スザクさんが悪夢にうなされるのなら、私が隣で背中を擦って差し上げます。余りに辛い様でしたら、お兄様のように叩いてでも起こして差し上げます。それでも哀しくて仕方ない場合は、私の膝をお貸ししますから、存分に泣いても結構ですよ?」
「……ナナリーの、膝枕…?」
「ハイ、泣き虫なスザクさんに特別にお貸しします。今でも良いんですよ?」
そう言って、ポンと自らの膝を叩く。
「贅沢者だな…。」
その様子に、ルルーシュがポツリと呟いたのが聞こえる。真上から見下ろされて、その表情が仕方ないと言いたげにしているのが見て取れた。
「ナナリーの温もりを存分に有り難がるが良い。…まだご飯の時間まで間があるから、もう少し眠っておけ。」
ふわりと頭が浮いた感覚の後に、暖かな温もりが後頭部に触れる。
ルルーシュが、ナナリーの膝の上に頭を移動させたのだ。
「…もう少し眠れスザク。そして今度は現実の夢を見ろ。俺とナナリーとお前と、三人でお茶でもしてる夢がイイ。」
それならうなされる事もないな、と。笑うルルーシュと目が合って、ニコリと微笑まれた。
「そうですね、スザクさん。大丈夫です、私が此処で見ていますから、悪い夢なんて見ませんよ?」
護ると言ったでしょう?とナナリーが笑った。
溢れる涙が止まることはない。けれど、今度は。
「……うん…、うん…っっ」
嬉しくて、何度も何度も頷いて繰り返す。
握られたままに両手が温かくて、温もりが嬉しくて。
涙を流し続けた所為か頭がボンヤリとしてきて、急に睡魔が襲ってくる。
ウツラウツラと瞼が上下する視界で、ルルーシュとナナリーが優しく覗き込んでいるのが見えた。
胸に灯った暖かな明りのお陰で、目を覚ます前の暗闇を忘れてしまったみたいだ。
だから、眠りに落ちる瞬間も何の不安も抱かず、頭を撫でる掌の優しさに安心して。
ゆっくりと身体から力が抜けていく。
「大丈夫だよ、スザク。」
「私たちが、貴方を護ります。」
その言葉に、泣きたくなる位の幸福感に包まれながら。
泣き虫スザクも萌えですよね。
2008/07/17