15話発生ss




















 手を、逸らされてしまった。





「…スザクさん。」



 息を呑む気配がする。
 真正面に立つ、大好きで大切で、一番信頼出来る人。
 兄が居なくなってから、必要以上に私を気遣ってくれる人。
 その人の掌を包もうとした指は、離れていく温もりに僅かに触れた。
 偶然ではない。彼は、意図して私に触れられたくなかったのだ。



「………、」



 顔を上げる。
 こうすれば、彼の顔を見上げている角度になるとわかっているから。
 ジンワリと涙がこみ上げてくるのが判る。けれど、今は泣いてはいけない。涙を流してしまえば、それで更にこの人は傷ついてしまう。
 けれど、判ってしまったことを言葉にしないではいられなかった。


「…同じ、なのですね…お兄様と。」


 一年前、同じようにあの人は私の掌を拒んだ。
 目の見えない私には、掌を握りこの人の心の機微を悟ることで嘘を見抜く。
 目が見えないからこそ出来る、目の前の人間の心を理解する為の唯一の手段。

 それを判っているからこそ、あの人は、この人は。
 私の掌を拒んだ。
 触れられることを拒んだのだ。


 隠したい何かがあるのですか?
 それは私にはいえないことですか。
 私が貴方に、嘘を追及したからですか。


 理由があるのなら、言って下さればいいのに。
 それすらしないで、私を籠の中に閉じ込めていて。
 満足ですか?


 何も知らないでいる事が幸せだと本気で思っているのですか。
 それが私の為だと本当に思っているのですか。
 どうしてそれが私の為だなどと言えるのですか。
 私の事など何一つ知ろうとしない癖に、どうして決め付けてしまうのですか。
 どうして、問いかけて下さらないのですか?


 言いたい事がたくさん、頭の中を駆け巡る。
 そうしてグルグルと回る思考の中、ポカリと開いた穴に一つの言葉が浮かぶ。




「………狡い。」




 ビクリと目の前の身体が揺らいだのが判った。


 今更。
 何を驚くというのですか。
 嘘を吐かないと吐き捨てておきながら、その言葉自体が嘘だったのだと判った私が。
 こんな言葉を吐かないとでも思っていたのですか。


 ピリピリとした空気が辺りに充満している。それは目の前の人物から流されているのだ。
 気まずいと思っているのか、それとも。
 少しでも、悪いと思ってくれているのか。



「…ナナリー……」



 名前を呼ぶ声は、酷く優しい。


 あぁ、だから。
 貴方を嫌いになる事なんて、出来やしないのです。













それが思慕なのか親愛なのか恋情なのかは兎も角。
ナナリがスザクを嫌いになることはないと思います。ルルがそうであるように。

あの場面、凄く萌えると同時にナナリーが可哀想でなりませんでした。






2008/07/20